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そのためには社員のやる気と定着率を高める! エンゲージメント研修の実践事例 離職防止と生産性向上を両立させる「対話型研修」のつくり方

やる気と定着率は「空気任せ」にできない

「採用した若手が3年以内に辞めてしまう」「評価は悪くないのに、どこか職場に熱量がない」。
こんな悩みを、人事・研修ご担当の方から日々お聞きします。

給与や制度を一気に見直すのは簡単ではありませんが、社員のエンゲージメント(会社への愛着・貢献意欲)を高める工夫は、研修設計と日々の関わり方次第で、少しずつでも積み上げることができます。

ポイントは、「やる気を出させる」施策を増やすことではなく、社員一人ひとりが、

  • この会社で働く意味を実感できること
  • 自分のキャリアと現在の仕事がつながっていると感じられること
  • 上司や同僚と安心して話ができること

といった土台を整えることです。

そのためには、単発のモチベーション講演ではなく、理念への共感・キャリア・人間関係といったテーマについて、立場を越えて率直に語り合える場をつくることが欠かせません。
研修は、そのきっかけをつくる有効な手段の一つです。日常業務の中では後回しになりがちなテーマこそ、研修の力で丁寧に扱う価値があります。

今回は「社員のやる気と定着率」を高めるエンゲージメント研修の実践事例をご紹介します。

1.なぜ今、エンゲージメント研修が求められているのか

ここ数年、多くの企業で「エンゲージメントをどう高めるか」が重要テーマとして語られるようになりました。
エンゲージメント研修が必要な理由は大きく3つあります。

①社員の価値観が多様化し、従来のマネジメントでは届かなくなったから

以前は「頑張れば成長できる」「長く働けば見返りがある」という前提がありましたが、今は社員の価値観が大きく分散しています。

  • ワークライフバランス重視型
  • キャリア形成優先型
  • 安定志向型
  • 挑戦志向型

同じ部署内でも、力を発揮する条件が全く異なるのが普通です。

だからこそ、「全員同じ方向にまとめる指導」だけでは限界があり、一人ひとりと対話して理解し、働く意味を一緒に見つける関わりが求められているのです。

②心理的安全性が低いと、生産性も改善提案も生まれなくなるから

Googleの調査でも示されたように、チームを強くする最重要要素は心理的安全性です。
「叱られそうで意見できない」「失敗が怖くて挑戦できない」という状態では、エンゲージメントは高まりません。

エンゲージメント研修では、

  • 安心して話せる対話のつくり方
  • メンバーの強みを見つけて言葉にする練習
  • 建設的に意見が言い合える関係性の築き方

などを体験的に学ぶため、現場の空気を柔らかくし、前向きなコミュニケーションを増やす効果があります。

③社員が「自分の仕事と会社の方向性がつながっている」と感じにくくなっているから

事業環境の変化が速い昨今、社員は

「会社がどんな未来を目指しているのか」
「自分はその中でどんな役割を果たすのか」

を実感しにくくなっています。

この“意味の断絶”が続くと、

  • 目の前の業務が作業化する
  • 達成感が薄れ、やる気が下がる
  • キャリアの展望が描けず離職につながる

という負の循環に陥ってしまいます。

エンゲージメント研修では、会社の理念・方向性を再確認し、自分のキャリアや日々の行動と接続させるワークを行うことで、「ここで働く意味」を再定義する時間をつくれます。

エンゲージメントは、制度を整えるだけでは高まりません。
社員一人ひとりの心の動きに寄り添い、対話し、働く意味を形づくる取り組みが必要です。
だからこそ今、エンゲージメント研修が企業にとって欠かせない存在になっているのです。

2.事例①:若手離職率を下げた「キャリア×対話型」研修

最初にご紹介するのは、若手社員の“早期離職”に課題を抱えていたITサービス企業の事例です。
人事責任者からは、

「3年目までの離職が高止まりしている」
「優秀な人ほどキャリアの見通しが持てず、不安を抱えている」

という切実な相談が寄せられていました。

ヒアリングを進めると、若手が辞める理由は「待遇」ではなく、
「将来が見えない」「自分の強みがわからない」「上司とキャリアの話ができない」
といった“心理的な孤立”にありました。
そこで企業は、キャリア形成と上司との対話を軸にしたエンゲージメント研修を導入する決断をしました。

研修の狙い:キャリアの“現在地”と“未来像”を言語化する
この研修の中心となる狙いは、

⑴若手社員が「自分のキャリアの軸」を理解すること
⑵その軸と会社の事業方向性を結びつけること
⑶上司とキャリアについて率直に話せる関係をつくること

の3点でした。

ステップ①:自己理解ワークでキャリアの“棚卸し”

まずは、自分の価値観・強み・大切にしたい働き方を整理するところからスタートします。

  • 過去の成功体験・喜びを感じた瞬間の振り返り
  • 自分の「こだわり」「苦手なこと」の可視化
  • 他者から見た強みフィードバック

ここで重要なのは、“他者視点”を取り入れることです。
自分一人では気づかない強みが、対話を通じて見えてくるため、若手の表情がみるみる変わっていきます。

ステップ②:会社の方向性と「重なるところ」を見つける

次に、人事・経営から事業戦略や中期計画をわかりやすく説明していただきます。

その上で、

  • 自分のキャリアの軸
  • 会社が向かう方向性
  • 今の部署の役割

この3つを 「どこで重なるか?」 の観点で整理していきます。

若手にとって、「会社の未来」と「自分の未来」がつながる感覚を持てる瞬間は、エンゲージメント向上に直結します。

ステップ③:上司との1on1を前提としたアクション設計

最後に、この研修の最も重要なポイントである上司とのキャリア対話の準備を行います。

  • 今後相談したいテーマ
  • 仕事で挑戦したいこと
  • 上司にサポートしてほしいこと

を研修中に整理し、研修後1ヶ月以内に必ず1on1を実施する仕組みをつくりました。

研修後に見られた変化
実施後のアンケートでは、若手社員の

  • 「会社で成し遂げたいことがある」
  • 「キャリアの相談ができる人がいる」

といった項目が大きく改善しました。

さらに、上司側からも、

  • 「部下の本音が聞きやすくなった」
  • 「1on1が以前より深い対話になった」

という声が増加しました。

離職率も次年度に向けて、着実に改善傾向が見られました。

この事例のポイントは、

「自分のキャリア」と「会社の未来」が結びつく感覚を育てる対話の場をつくること

であり、それによって、若手のエンゲージメントは、確かな変化を見せ始めます。

3.事例②:現場リーダー向け「チームのできる感」を高める研修

次に紹介するのは、製造業の現場リーダー層を対象としたエンゲージメント研修です。
この企業では、品質・納期プレッシャーが年々高まる中、現場に疲弊感が漂い、

「指示待ちが多い」「自分から改善提案が出なくなった」

といった声が管理職から上がっていました。

現場を観察すると、

  • 成果が出ても認められる場がほとんどない
  • ミスや改善点ばかりが指摘される
  • 小さな挑戦が評価されにくい

といった状況があり、メンバーの“やる気の火種”が失われつつありました。

そこで導入したのが、リーダーがメンバーの「できるところ」に光を当てる習慣を身につけるためのエンゲージメント研修です。

研修のコンセプト:叱る前に、まず「良かった点」を一緒に探す
リーダーは日々忙しく、「うまくいっている点」より「できていない点」に目が向きがちです。
しかし、エンゲージメントが低いチームでは、メンバーが「どうせ何を言われても改善点ばかり」と思い込んでおり、挑戦意欲が湧きません。

この研修で最も大切にしたのは、

“評価の観点を変えるだけで、チームの空気は大きく変わる”

という事実を体感してもらうことでした。

ステップ①:エンゲージメントの理解と“承認のメカニズム”を学ぶ

まずは座学で、

  • 人は何によって行動意欲を高めるのか
  • 承認が行動に与える心理的効果
  • 叱責中心のマネジメントが生む副作用

を、事例と共に学びます。

特に共感を呼んだのは、

「行動が変わるのは“できている部分”を認められたとき」というポイントです。

“褒める”のではなく、具体的に事実を認めることが、リーダーの関わりの質を決めるのです。

ステップ②:声かけの「型」を身につける実践演習

次に、実際の現場で使える声かけの「型」を紹介します。

たとえば、

  • 「〇〇が改善されていて、助かりました」
  • 「前回よりここが良くなっていましたね」
  • 「あなたの工夫のおかげで、作業がスムーズになりました」

ポイントは、感情ではなく事実で伝えることです。
これにより、相手が防衛的にならず、行動の再現性が高まります。

その後、実際の現場を想定したロールプレイを実施します。
「ミスが続くメンバー」「やる気が見えない若手」など、リアルなシナリオを使い、

  • 指摘中心パターン
  • 承認中心パターン

の2種類を比較しながら練習します。

ここで多くのリーダーが、「同じ内容を伝えているのに、関係性が全然違う」という気づきを得ます。

ステップ③:チームの“できる感”を高める実践アクションへ

研修の締めくくりでは、各リーダーが自分のチームの現状を振り返りながら、
「明日からできる小さな承認行動」を言語化します。

たとえば、

  • 1日1回、メンバーの良い行動を事実ベースで伝える
  • 週1回、メンバーの工夫をピックアップしてチームで共有する
  • ミスの指摘の前に、必ず良かった点を一つ伝える

これらの“ミニアクション”が、現場の空気を徐々に変えていきます。

研修後の変化:雑談が増え、提案が増え、チームが前向きに

研修の1ヶ月後、人事担当者から次のような報告がありました。

  • メンバーとの雑談が増えた
  • 若手からの改善提案が以前より出るようになった
  • 「相談しやすくなった」という声がメンバーから挙がった
  • 叱責の回数が減り、チームの雰囲気が柔らかくなった

大きな制度改革を行ったわけではありません。
リーダーの“関わり方”が変わっただけで、エンゲージメントは確実に動き始めたのです。

この事例では、現場の改善は「仕組み」だけでは不十分であり、リーダーの一言・一つの関わり方
が、チームの空気を変える”最初の一歩”になることを示しています。

4.事例③:理念浸透と心理的安全性を両立させる全社ワークショップ

最後に紹介するのは、「理念はあるが、現場に浸透していない」という課題を抱えるサービス業の事例です。
多くの企業と同様、この会社も立派な企業理念・行動指針を掲げていました。

しかし、現場の社員に話を聞くと、

「正直、普段の仕事で意識することはほとんどない」
「理念は“額縁の中”にあるだけ」

という声が目立ち、経営の想いと現場の実感が乖離していました。

また、会議では上司の顔色をうかがう風土が残り、心理的安全性が高いとは言えず、社員が理念を「自分の言葉」で語る機会もありませんでした。
そこで企業は、理念浸透と心理的安全性の向上を同時に実現する全社ワークショップを企画しました。

研修のコンセプト:理念を“語る文化”から“共有される文化”へ

理念浸透でありがちなのは、スローガンの暗記やトップメッセージの一方的な伝達だけで終わるケースです。
しかし、それでは「理念の理解」は進んでも、「共感」や「行動への反映」は起きません。

このワークショップで重視したのは、社員一人ひとりが、理念との“つながり”を自分の言葉で語れる状態です。
そのために、心理的安全性を高めながら対話を深める設計としました。

ステップ①:経営陣が理念の“ストーリー”を語る時間

ワークショップの冒頭では、経営陣が理念の背景を「人としての言葉」で語りました。

  • なぜこの理念にたどり着いたのか
  • 創業時の苦労や失敗
  • 現場のある行動に救われたエピソード

スライド説明ではなく、“生のストーリー”として語ることで、社員が理念を「経営の正論」ではなく「人の想い」として受け取る空気が生まれます。
ここが、理念浸透の最初の重要なステップになります。

ステップ②:「理念が生きていた瞬間」を共有する対話ワーク

次に、階層を混ぜたグループで、「あなたが職場で見た、理念が生きていた瞬間は?」について語り合いました。

たとえば、

  • あるスタッフがクレーム対応のあと、相手の気持ちに寄り添い続けた話
  • 新人が困っていたとき、先輩が黙ってサポートしてくれた瞬間
  • 部署をまたいで協力し、納期ギリギリの案件を乗り越えた経験

日常では共有されにくい“良い行動”がテーブルの上に出てくることで、社員は「自分たちの職場にも理念が息づいている」と気づき始めます。

この対話は、心理的安全性を高める効果も非常に大きく、

  • 承認し合う
  • 聞き合う
  • 共感し合う

という関係性の土台を自然に育てます。

ステップ③:明日からできる“理念の一歩”を宣言する

最後に、理念を行動に落とし込むためのアクション宣言を行います。

  • 「お客様との対話で、相手の意図を一度深掘りする」
  • 「週1回、チームで理念をテーマに5分議論する」
  • 「新人の成功体験をチームで共有する」

ポイントは、大きな目標ではなく“小さく・具体的・すぐできる” 行動に絞ること。
その行動をチーム内で共有し、1ヶ月後に振り返る仕組みを設けました。

研修後の変化:理念が“日常会話”の中に入り始めた

ワークショップ後、次のような変化が現れました。

  • 会議で「それは理念と合っているか?」という言葉が自然に出るようになった
  • 上司・部下の1on1で、理念を軸に行動を振り返る場面が増えた
  • 若手から「会社の方向性が前より理解できた」という声が増えた

つまり、理念が「掲げるもの」から「話すもの」へ、さらに「行動の基準」へと変わり始めたのです。

この事例は、理念浸透とは“伝えること”ではなく、“語り合える場をつくる”ことであると教えてくれます。
心理的安全性が整った環境でこそ、理念は初めて社員の行動へとつながり、エンゲージメント向上に結びつきます。

5. エンゲージメント研修を企画するときのチェックポイント

ここまで事例を見てきたとおり、エンゲージメント研修は「やる気を上げるイベント」ではなく、社員同士・上司部下・会社との関係性を整え、対話を生み出す仕組みです。

では、企画段階ではどのようなポイントを押さえるべきでしょうか。

①目的を“やる気アップ”で終わらせない

エンゲージメントの核心は、

  • 誰との関係性を良くしたいのか
  • どんな対話を増やしたいのか
  • 研修後にどんな行動変化を期待するのか

まで、具体化できるかどうかです。

漠然と「モチベーション向上」を掲げるだけでは、効果は限定的になります。
理念・キャリア・心理的安全性など、テーマを明確に定めることが出発点です。

②座学だけで終わらせず、“自分ごと化”の仕掛けを入れる

エンゲージメントが高まるのは、参加者が「自分はどうしたいのか」を言語化した瞬間です。

そのため、

  • 講義(インプット)
  • 対話ワーク(気づき)
  • 行動宣言(実践)

の往復が不可欠です。
自社の事例や実際の職場課題を扱い、リアルな学びにすることも大切です。

③管理職を巻き込み、研修後のフォローを設計する

エンゲージメントは現場でしか育ちません。
研修対象者だけではなく、上司側の理解と関わり方の改善が不可欠です。
研修後1ヶ月以内の1on1、簡易サーベイでの変化測定、チームミーティングでの振り返りなど、フォローの仕組みを必ず設計しましょう。

④“小さな成功体験”を意図的に積ませる

大きな行動変容を求めると、かえって尻込みしてしまいます。
「1日1回ありがとうを伝える」「会議で1つ質問する」など、小さく具体的な行動を設定し、成功体験を積ませることで、チーム全体の“できる感”が醸成されていきます。

エンゲージメント研修の価値は、研修当日よりもむしろ、研修後にどんな対話が増えたかに表れます。
小さな一歩を積み重ねる設計こそが、やる気と定着率を高める最大の鍵となります。

6. エンゲージメント研修は「対話の設計」がすべて

エンゲージメント研修の本質は、社員のテンションを上げることではなく、関係性と対話の質を高める場をつくることにあります。
理念・キャリア・心理的安全性・日々の成功体験といったテーマは、ただ「聞く」だけでは変化につながりません。
自分で語り、他者と共有し、行動に落とし込むことで初めてエンゲージメントは動き始めます。

その意味で鍵となるのは、研修の中に “対話が自然に生まれ、深まる仕掛け”をどれだけ設計できるかです。
座学だけでなく、対話ワーク・振り返り・アクション設定を組み合わせることで、現場での行動変容が起きやすくなります。

エンゲージメントは制度だけでは高まりません。
小さな対話の積み重ねが、職場の空気を変え、やる気と定着率を確実に引き上げます。
だからこそ今、対話を軸にしたエンゲージメント研修が企業に求められているのです。

責任者プロフィール
竹村孝宏

中小企業診断士、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー。大阪市立大学商学部卒業、豪州ボンド大学大学院経営学修士課程(MBA)修了。
㈱デンソーで企画、営業、人事、中国上海駐在を経験、「低コストプロジェクト」で社長賞を受賞するなど活躍した後、独立。現場での多くの経験をベースにした実践的コミュニケーション、モチベーションアップを軸としたプログラムを提供している。日経クロステックに連載中。著書は、「仕事が速い人は何をしているのか?ビジネスフレームワーク活用法」(セルバ出版)
「30代リーダーのための聞く技術・伝える技術」(中経出版)等、多数。

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