
●テレワークで「仕事は回るが、関係が育たない」時代に
テレワークやハイブリッドワークが定着し、業務の進め方そのものは大きく効率化されました。
移動時間は減り、オンライン会議やチャットツールを使えば、必要な情報は以前よりも早く共有できます。
一見すると、「仕事は問題なく回っている」状態に見える職場も多いでしょう。
しかしその一方で、人事担当者やマネージャーからは、こうした声が多く聞かれるようになっています。
「相談が減った」「本音が見えにくい」「チームの一体感が弱まっている気がする」。
業務は滞りなく進んでいる一方で、人と人との関係性が育ちにくくなっている――
これが、テレワーク時代の職場が抱える共通の課題です。
オンライン環境では、会議ややり取りが目的志向になりやすく、用件のない会話や雑談が自然と生まれにくくなります。
かつては何気ない立ち話や表情の変化から察知できていた違和感や小さな困りごとも、見過ごされがちです。
その結果、問題が表面化する頃には、すでに大きくなっているケースも少なくありません。
こうした背景から、近年のコミュニケーション研修は大きく変化しています。
単に伝え方のスキルを磨くだけでなく、心理的安全性をどう確保するか、偶発的な対話をどう生み出すかといった、「関係性そのもの」を扱う研修が注目されているのです。
仕事を回すだけでなく、関係を育て直す。その視点が、今あらためて求められています。
今回は、テレワーク時代のコミュニケーション研修の最新動向と、人事担当者が押さえておきたい設計のポイントを整理していきます。
1.なぜ今、「関係性」を扱うコミュニケーション研修が増えているのか
テレワークやハイブリッドワークが広がる中で、コミュニケーションの量や質は大きく変化しました。
メールやチャット、オンライン会議を使えば、業務に必要な情報は迅速に共有できます。
そのため、「情報伝達」という観点だけで見れば、以前よりも効率的になった職場も多いでしょう。
それにもかかわらず、現場では「連携がうまくいかない」「相談が遅れる」「小さなズレが大きな問題になる」といった声が増えています。
では、なぜこのような状況が生まれているのでしょうか。
⑴失われたのは「業務外のやり取り」という関係性の土台
背景にあるのは、情報は伝わっているが、関係性が育っていないという状態です。
対面で働いていた頃は、業務外の雑談やちょっとした声かけ、表情や空気感の共有が、無意識のうちに信頼関係を支えていました。
こうした「業務と業務の間」に存在していたやり取りが、テレワーク環境では大幅に減少しています。
結果として、「まだ整理できていない相談」や「違和感レベルの気づき」が表に出にくくなりました。
⑵発言や相談が控えられる職場で起きていること
この状態が続くと、メンバーは「間違ったことを言ったらどうしよう」「忙しそうだから今はやめておこう」と考え、発言を控えるようになります。
すると、問題は共有されないまま蓄積され、表面化したときにはすでに対応が難しい状況になってしまいます。
これは個人の意識や姿勢の問題ではなく、安心して話せる関係性が土台として弱まっていることが原因です。
⑶スキルだけでなく「関係性」を扱う研修へのシフト
そこで注目されているのが、「関係性」をテーマに据えたコミュニケーション研修です。
近年の研修では、話し方や説明力といったスキルだけでなく、「意見を言っても大丈夫だと思えるか」「分からないときに助けを求められるか」といった心理的な側面を重視します。
心理的安全性を高めることで、発言や相談のハードルを下げ、対話が自然に生まれる状態を目指すのです。
重要なのは、関係性を「雰囲気」や「相性」に任せないことです。
最新の研修では、安心感を下げてしまう言動や、逆に対話を促す具体的な関わり方を、行動レベルで整理します。
なぜ今、関係性を扱う研修が増えているのか。
その理由は、テレワーク時代の組織において、成果の前提条件としての関係性が、これまで以上に重要になっているからです。
2.最新動向①:心理的安全性を“スローガン”で終わらせない研修設計
「心理的安全性が大事だ」という言葉は、すでに多くの職場で共有されています。
研修や社内資料、マネジメント方針の中でも頻繁に目にするようになりました。
しかし現場では、「重要なのは分かっているが、具体的に何をすればいいのか分からない」「結局、雰囲気の話で終わってしまう」といった戸惑いの声も少なくありません。
心理的安全性が、行動に結びつかないスローガンになってしまっているケースが多いのです。
⑴抽象論ではなく「日常の関わり方」まで落とし込む
そこで近年のコミュニケーション研修では、心理的安全性を抽象的な価値観として語るのではなく、「日常の関わり方」にまで分解して扱います。
たとえば、意見が出た瞬間に評価や結論を急がない、分からないと言った人を責めない、沈黙を「考えている時間」として受け止める。
こうした一つひとつの行動が、職場の安心感を左右していることを、事例やワークを通じて体感してもらいます。
⑵無意識の一言が、安心感を下げていないか
特に焦点が当てられるのが、「無意識のうちに安心感を下げてしまう言動」です。
悪気はなくても、「で、結論は?」「それ、前にも聞いたよね」「今は忙しいから後にして」といった一言が、発言のハードルを一気に高めてしまうことがあります。
研修では、こうした言葉を「良い・悪い」で断罪するのではなく、「その一言が相手にどう伝わっているか」を考える機会をつくります。
⑶心理的安全性はマネージャーだけの課題ではない
また、最新の研修では、心理的安全性をマネージャーだけの責任にしない点も特徴です。
チーム全員が、互いの発言や反応によって場の空気をつくっているという視点を共有します。
誰か一人が頑張るのではなく、チームとしてどんな関わり方を増やしていくのかを話し合うことで、現実的な行動変化につなげていきます。
心理的安全性は、特別な制度や長時間の対話がなくても育てることができます。
必要なのは、日常のやり取りの中で、「安心して話していい」というサインを出し続けることです。
スローガンで終わらせず、具体的な行動として落とし込む。このアプローチこそが、今のコミュニケーション研修で重視されている最新動向なのです。
3.最新動向②:「偶発的な対話」を意図的につくる研修アプローチ
テレワークやハイブリッドワークが定着した今、多くの職場で雑談や立ち話が大きく減っています。
出社していれば自然に交わされていた一言や、用件の前後に生まれていた会話は、オンライン環境ではほとんど発生しません。
その結果、仕事に必要な情報は共有されていても、互いの状況や考えを知る機会が乏しくなっています。
こうした環境では、「そのうち話せばいい」「必要になったら相談する」と待っていても、対話はなかなか生まれません。
だからこそ最近の研修では、偶発的な対話を“待つもの”ではなく、“つくるもの”として捉える発想が重視されています。
⑴「目的のない会話」をあえて研修に組み込む
最新のコミュニケーション研修では、あえて業務の結論や成果を求めない対話ワークが取り入れられています。
たとえば、正解のないテーマについて短時間で意見を共有する、最近感じている小さな違和感を言葉にする、といった取り組みです。
ポイントは、生産性や効率を過度に求めないことです。
結論を出さなくてもよい対話を経験することで、「途中の考えでも話していい」「整理できていなくても大丈夫」という感覚が育ちます。
この安心感が、日常業務での発言や相談のハードルを下げていきます。
⑵オンライン環境だからこそ必要な「対話のきっかけ設計」
対面と違い、オンラインでは対話のきっかけが意図的に設計されなければ生まれません。
そのため研修では、オンライン前提での具体的な工夫も扱われます。
たとえば、会議冒頭での簡単なチェックイン、1on1での近況共有の型、雑談を許容する時間帯の設定などです。
どれも小さな工夫ですが、「話してもよい場である」というメッセージを継続的に出すことにつながります。
⑶マネージャーの関わり方が、対話の量と質を左右する
偶発的な対話を職場に根づかせるうえで、マネージャーの関わり方は大きな影響を持ちます。
たとえば、会議の最後に「何か気になっていることはある?」と一言添える、1on1で業務以外の話題をあえて挟むなど、わずかな働きかけが対話の入口になります。
重要なのは、深い議論を引き出そうとしすぎないことです。
短いやり取りでも、「声を出してよい」という経験を積み重ねることで、チーム内の対話は少しずつ広がっていきます。
偶発的な対話が増えると、未完成な相談や違和感が早い段階で共有されやすくなります。
問題が大きくなる前に気づけるため、結果的に手戻りやトラブルを減らすことにもつながります。
最新の研修が目指しているのは、雑談そのものを増やすことではありません。
対話が生まれやすい状態を意図的につくることです。
その積み重ねが、テレワーク時代でも関係性を育て、チームの力を引き出す土台となっていきます。
4.最新動向③:スキル研修+関係性研修を“分けて考えない”
コミュニケーション研修というと、「分かりやすく伝える」「論理的に話す」といったスキル習得を思い浮かべる方も多いでしょう。
もちろん、指示の出し方や説明の構造を整えることは重要です。しかし近年、こうしたスキル研修だけでは、期待した行動変化が起きにくくなっています。
その理由はシンプルです。
関係性が整っていない場では、どれだけ正しい伝え方でも使われないからです。
⑴スキルと関係性は、切り離せない関係にある
最新のコミュニケーション研修では、スキルと関係性を別物として扱いません。
たとえば、「結論から伝える」「背景を整理して説明する」といった基本的な伝え方も、「この伝え方は、相手にどんな印象を与えるか」「相手は安心して質問できるか」といった視点とセットで扱われます。
同じ言葉でも、信頼関係がある場合と、ない場合とでは受け取られ方がまったく異なります。
そのため研修では、「正しい言い方」を教えるだけでなく、「この場面で、なぜその言い方が有効なのか」を考えるプロセスを重視します。
⑵フィードバックや1on1こそ、関係性が問われる場面
特に、フィードバックや1on1といった場面では、スキルと関係性の影響が顕著に表れます。
伝え方の型を知っていても、「否定されるのではないか」「評価を下げられるのではないか」という不安があれば、相手は防御的になり、対話は深まりません。
そのため最新の研修では、フィードバックの手順と同時に、「どんな前提や空気感があれば、相手は受け取りやすくなるのか」まで踏み込みます。
スキルを活かすための土台として、関係性をどう整えるかを学ぶのです。
⑶スキル研修を「関係性を育てる機会」に変える
このアプローチにより、スキル研修そのものの意味合いも変わってきます。
単なる技術習得の場ではなく、「対話の質を高める場」「関係性を点検する場」として機能するようになります。
研修内でのワークややり取りを通じて、「この言い方だと話しやすい」「この反応は安心感がある」といった気づきが共有されることで、日常業務にも変化が波及していきます。
スキルと関係性を分けて考えない。
この視点こそが、最新のコミュニケーション研修の大きな特徴です。
関係性が整っているからスキルが活き、スキルが活きることで関係性がさらに深まるのです。
この好循環をつくることができれば、研修は「学んで終わり」ではなく、「現場で使われ続けるもの」になります。
テレワーク時代に成果を出し続ける組織にとって、欠かせないアプローチと言えるでしょう。
5.テレワーク時代の研修は「関係の再設計」から始まる
テレワークやハイブリッドワークが当たり前になった今、コミュニケーション研修に求められる役割は大きく変わっています。
従来のように「伝え方のスキル」を身につけるだけでは、職場の課題は解決しきれません。
仕事は回っていても、関係性が育たなければ、相談や対話は生まれにくく、問題は表に出ないまま蓄積されていきます。
これからの研修で重視すべきなのは、心理的安全性を土台に、偶発的な対話が生まれる関係性を意図的につくり直すことです。
安心して話せる場があるからこそ、伝え方のスキルは現場で使われ、フィードバックや1on1も機能します。
スキルと関係性を切り離さず、セットで扱う視点が欠かせません。
重要なのは、特別な制度や大がかりな施策を導入することではありません。
日常のやり取りの中で、「話してもいい」「途中でも大丈夫」というサインを出し続けることです。
その積み重ねが、関係性を少しずつ回復させていきます。
研修は、そのきっかけと共通認識をつくる場として設計することが効果的です。
「最近、チームの会話が減っている」「問題が見えにくくなっている」と感じたときこそ、研修を見直すタイミングです。
伝え方だけに目を向けるのではなく、関係性そのものをどう再設計するか。
その視点を持つことが、テレワーク時代でも成果を出し続ける組織づくりにつながっていきます。




